今シーズン(2026-27年)のインフルエンザは、8月下旬に全国で「流行入り」が発表されました。統計を取り始めた1999年以降で2番目に早いペースです。
「ワクチンって本当に効くの?」「打ってもかかったことがあるから意味ない気がする」——診察室でもよく聞かれる質問です。この記事では、ワクチンで何が防げて、何が防げないのかを、国のデータをもとに整形外科・婦人科の医師の立場から分かりやすく解説します。
厚生労働省は2026年8月28日、インフルエンザが全国的な流行期に入ったと発表しました。第34週(8月17日〜23日)の全国の定点当たり報告数が1.11となり、流行開始の目安である「1.0」を超えたためです。
感染症法が施行された1999年以降では、2009年(新型インフルエンザの年)に次いで2番目の早さです。夏休み明けから学校や施設での集団感染も報告されており、「インフルエンザは冬の病気」という感覚のままでいると、準備が間に合わない可能性があります。
流行が早い年は、ワクチンも「早め」が基本です。例年は「12月中旬までに」と案内されていますが、今季は10月〜11月中の接種をおすすめします。
インフルエンザワクチンは、毎年「その冬に流行しそうなウイルス」を予測して作られます。2026-27シーズンは、次の3種類(3価ワクチン)です。今季は3種類すべてが昨シーズンから入れ替わっています。
| 型 | 今季のワクチン株 |
|---|---|
| A型(H1N1) | A/スイス/6849/2025 |
| A型(H3N2) | A/ミシガン/105/2025 |
| B型(ビクトリア系統) | B/東京/EIS13-175/2025 |
「去年打ったから今年はいいかな」と思われる方もいますが、ワクチンの中身そのものが毎年変わっています。毎年の接種が必要なのはこのためです。
インフルエンザワクチンは、「絶対にかからなくなる薬」ではありません。例えるなら、車のシートベルトのようなものです。シートベルトをしていても事故は起こりますが、大けがになる確率は大きく下がります。
ワクチンも同じで、
という2つの効果があります。特に大切なのは後者です。
厚生労働省のインフルエンザQ&Aでは、次のような研究結果が紹介されています。
65歳以上の高齢者施設入所者での報告
同じく高齢者施設入所者での報告
6歳未満の子どもでの報告
成人の発病予防効果は、その年のワクチンと流行ウイルスがどれだけ一致したかによって変わり、海外の報告ではおおむね40〜60%前後とされる年が多くなっています。
「60%」と聞くと物足りなく感じるかもしれません。ただ、ここでいう60%は「100人中60人しか守れない」という意味ではありません。ワクチンを打たなかった場合にかかったはずの人のうち、およそ6割がかからずに済んだという意味です。
接種してもインフルエンザにかかることはあります。主な理由は次の3つです。
ワクチンは流行を「予測」して作るため、実際に流行したウイルスと形が少しずれることがあります。それでも、まったく打たない場合より重症化を防ぐ効果は期待できます。
ワクチンを打ってから、体の中で十分な抗体(ウイルスと戦う武器)ができるまで約2週間かかります。流行のピーク直前に打つと、間に合わないことがあります。
高齢の方や、免疫を抑える薬を使っている方は、抗体ができにくい傾向があります。だからこそ、周りの家族も一緒に打つことが大切です。
接種後、効果が出始めるまでに約2週間、その効果はおよそ5か月続くとされています。10月下旬〜11月に打てば、流行のピークになりやすい12月〜3月をカバーできる計算です。
| 接種した時期 | 効果が期待できる期間(目安) |
|---|---|
| 10月中旬 | 10月下旬〜3月ごろ |
| 11月中旬 | 11月下旬〜4月ごろ |
| 12月中旬 | 12月下旬〜5月ごろ(年内の流行には間に合わないことも) |
注射のインフルエンザワクチンは「不活化ワクチン」といって、ウイルスの感染する力をなくし、一部の成分だけを取り出して作られています。ワクチンが原因でインフルエンザを発症することはありません。
接種後に微熱やだるさが出ることはありますが、これは体が抗体を作ろうとしている反応で、多くは2〜3日でおさまります。
前述のとおり、ワクチンの中身は毎年変わります。さらに、効果の持続はおよそ5か月なので、昨シーズンの効果はすでに切れていると考えてください。
健康な若い方は重症化しにくいのは事実です。ただ、1週間近く仕事や学校を休むことになりますし、家にいる高齢の家族や赤ちゃん、妊娠中の家族にうつしてしまうこともあります。ワクチンは「自分を守る」と同時に「大切な人を守る」ためのものでもあります。
65歳以上の方、心臓・肺・腎臓の病気や糖尿病などの持病がある方は、インフルエンザから肺炎を起こしたり、持病が悪化したりしやすいことが分かっています。65歳以上の方などは国の定期接種の対象で、市町村の助成を受けて接種できます(詳しくは後述)。
ここは、整形外科医としてぜひお伝えしたいポイントです。
高齢の方がインフルエンザで数日寝込むと、足腰の筋力が一気に落ちてしまうことがあります。筋肉は、使わないと「貯金を切り崩す」ように減っていきます。若い方ならすぐに取り戻せますが、高齢の方は元に戻るまでに何週間もかかることが少なくありません。
その結果、
という流れで、感染症がきっかけで寝たきりに近づいてしまうケースがあります。骨粗鬆症の治療中の方、リハビリに通っている方にとって、インフルエンザワクチンは「骨と筋肉を守る予防策」のひとつと言えます。
せっかくリハビリで積み上げた筋力が、1回のインフルエンザで振り出しに戻ってしまうのは本当にもったいないことです。リハビリや骨粗鬆症の治療で通院中の方も、受付で接種のご予約をお取りいただけます。お気軽にお声がけください。
妊娠中は体の免疫の働きが変化するため、インフルエンザにかかると重症化しやすいことが知られています。日本産科婦人科学会などの診療ガイドラインでも、妊娠中のインフルエンザワクチン接種は妊娠のどの時期でも可能とされています。
また、お母さんがワクチンで作った抗体は胎盤を通じて赤ちゃんにも届き、ワクチンを打てない生後6か月未満の赤ちゃんを守ることにつながると報告されています。授乳中の接種も問題ありません。
ご不安な点があれば、接種前の診察で遠慮なくご相談ください。
受験を控えたお子さんがいるご家庭は、本人だけでなく家族全員での接種が大切です。受験生の接種時期や回数については、「受験生のインフルエンザワクチンはいつ打つ?」(10月14日公開予定)で詳しく解説しています。
| 症状 | 頻度の目安 | 経過 |
|---|---|---|
| 注射した部分の赤み・腫れ・痛み | 10〜20% | 通常2〜3日で消えます |
| 発熱・頭痛・寒気・だるさ | 5〜10% | 通常2〜3日で消えます |
| アナフィラキシー(強いアレルギー反応) | 非常にまれ | 多くは接種後30分以内に起こるため、接種後は院内で様子を見ていただきます |
ほかにも、ギラン・バレー症候群や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などの重い副反応がごくまれに報告されています。接種後に手足のしびれや力の入りにくさなど、いつもと違う症状が出た場合はすぐにご連絡ください。
例年は「12月中旬までに接種を終える」ことが推奨されています。ただ、今季は流行入りが非常に早いため、10月〜11月中の接種をおすすめします。すでに周囲で流行している場合は、「早いほど良い」と考えてください。
| 接種期間 | 2026年9月18日(金)から接種を開始しています(福岡市の65歳以上の公費接種は10月1日から) ※ワクチンがなくなり次第終了します。詳しくは接種開始のお知らせをご覧ください |
|---|---|
| 対象 | 小学生以上の方(未就学のお子さんは、原則として小児科での接種をおすすめしています) |
| 料金 | 福岡市内在住の65歳以上の方:1,500円 一般の方(64歳以下):3,500円 中学生・高校生:3,200円 小学生:1回3,000円(原則2回接種) 受験生とその同居のご家族:3,200円 |
| 予約 | WEB予約、またはお電話(092-834-8740)で受け付けています |
| 持ち物 | 65歳以上の方:健康保険証またはマイナンバーカード 高校生以下の方:母子手帳 お薬手帳(お持ちの方) |
福岡市では、65歳以上の方と、60〜64歳で心臓・腎臓・呼吸器の機能、またはHIVによる免疫の機能に重い障がいがある方を対象に、自己負担を抑えてインフルエンザワクチンを接種できる制度があります(接種は1シーズン1回)。
市からの接種券の送付はなく、実施医療機関に直接予約して接種する仕組みです(令和7年度の場合)。公費での接種は10月1日からで、当院での自己負担額は1,500円です(9月中の接種は公費の対象になりません)。当日は健康保険証またはマイナンバーカードをお持ちください。生活保護を受けている方などは費用が免除される制度があります。詳しくは受付でおたずねください。
インフルエンザワクチンは、かかる確率を下げるだけでなく、重症化や入院を防ぐための大切な備えです。特に今季は流行が早く始まっています。
ご自身とご家族を守るために、早めの接種をご検討ください。
参考資料
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。制度や料金は変更される場合があります。