スポーツ中に太ももの裏やふくらはぎに突然痛みが走り、「肉離れかもしれない」と受診される方は少なくありません。そこでよく聞かれるのが、「MRIまで撮った方がいいですか?」という質問です。
結論から言えば、肉離れだからといって全員にMRIが必要なわけではありません。 一方で、競技レベルが高い方、再発例、症状が強い方、大切な大会を控えている方では、MRIで得られる情報が治療や復帰計画に役立つことがあります。
肉離れは、ダッシュ、ジャンプ、キック、急な方向転換などで筋肉に強い力が加わり、筋線維や筋腱移行部などが損傷するケガです。
特に多い部位は次の通りです。
「ブチッとした感じがした」「急に走れなくなった」「翌日から内出血が広がった」などの症状がみられることがあります。
一般的には、肉離れは損傷の程度によって軽度・中等度・重度に分けて考えます。
| 程度 | 目安 |
|---|---|
| 軽度 | 筋肉の軽微な損傷。歩行可能なことも多く、日常生活への影響は比較的小さい。 |
| 中等度 | 筋線維や筋腱移行部などの部分損傷。歩行や走行で痛みが出やすく、スポーツ継続は困難。 |
| 重度 | 筋肉や腱の大きな損傷・断裂を伴うことがあり、著明な腫れ、皮下出血、筋力低下などを認める。 |
ただし、スポーツ復帰を考える場合は「何度の肉離れか」だけでは十分ではありません。損傷部位や、腱組織を含むかどうかも重要です。
MRIの大きなメリットは、単に「肉離れがあります」と確認することではありません。
などを詳しく評価できます。
筋損傷のMRI分類としてはBritish Athletics Muscle Injury Classification(BAMIC)などが知られており、損傷の程度だけでなく、筋膜周辺・筋腱移行部・腱組織など、どの組織が主に損傷しているかも考慮します。
答えはいいえです。
例えば、痛みが軽く、歩行可能で、腫れや内出血が少なく、診察上も軽症と考えられ、競技復帰を急いでいない場合には、MRIを撮影せず経過をみながら治療・リハビリを進めることも十分可能です。
MRIを撮らなければ治らない、ということではありません。
これは半分正しく、半分違います。
軽症の肉離れでは、MRIを撮影してもしなくても、回復に応じて徐々に負荷を戻していくという治療の大枠は変わらないことがあります。
MRIそのものに治療効果があるわけではありません。
一方で、競技スポーツでは「いつジョギングを開始するか」「いつダッシュを再開するか」「大会までにどこまで戻せるか」といった復帰計画が重要です。そのときに、損傷部位や程度を把握していることは判断材料になります。
MRIは有用な検査ですが、当然ながら医療費がかかります。特に学生スポーツの場合、実際に費用を負担するのは保護者であることが多く、「肉離れのためにMRIまで必要なの?」と思われるのは当然です。
当院にはMRI装置がないため、MRIが必要と判断した場合は近隣の医療機関にご紹介しています。紹介状の作成費用と紹介先でのMRI検査費用をあわせて、健康保険3割負担の場合はおおよそ6,000〜8,500円程度が目安です(紹介先の設備や、あわせて行う検査の内容により変動します)。
そして実際、軽症例ではMRIを撮影しなくても問題なく競技復帰できるケースがあります。
そのため当院では、「肉離れだからMRIを撮りましょう」と一律に考えるのではなく、MRIを撮ることでその後の意思決定がどれだけ変わるかを考えます。
例えば、「3か月後の大会に向けて部活動をしている中学生」と、「全国大会まで4週間の高校生」とでは、同じ肉離れでも必要とする情報は違います。
MRIを撮るかどうかは、検査できるかどうかではなく、その結果が治療や復帰計画にどれだけ役立つかで考えることが大切です。
受傷直後は損傷部位を保護し、痛みや腫れに配慮する必要があります。しかし、スポーツ復帰を目指すのであれば、その後は組織の回復に合わせて適切な負荷を段階的に加えていくことが重要です。
痛みや腫れ、歩行状態を確認しながら損傷部位を保護します。受傷直後から強いストレッチや高負荷トレーニングを行うのではなく、状態に応じて軽い筋収縮などから開始します。
痛みが落ち着いてきたら、筋肉への負荷を徐々に増やします。等尺性運動などから開始し、状態に応じて抵抗運動へ進めます。
肉離れのリハビリでは、エキセントリック(遠心性)収縮を含む筋力トレーニングが重要になります。ハムストリングではNordic Hamstring Exerciseなどがよく知られています。
ただし、すべての患者さんが受傷直後から同じメニューを行うわけではありません。損傷部位・症状・競技レベルに合わせて負荷を調整します。
特にハムストリングは高速走行時に大きな負荷がかかるため、全力疾走への復帰は慎重に進めます。
など、その競技特有の動きを確認していきます。
当院では、肉離れの治療を「痛みを取るだけ」ではなく「スポーツに戻すところまで」を意識して行います。
筋力、柔軟性、動作などを評価しながら、段階的にスポーツ復帰を目指します。必要に応じてエキセントリックトレーニング、ランニング、スプリント、切り返しなど、競技に必要な負荷へ進めていきます。
症状に応じて、物理療法を補助的に組み合わせることがあります。
物理療法だけで損傷した筋肉そのものを治すという考え方ではなく、痛みなどの症状をコントロールしながら、「動ける状態を作り、その後のリハビリにつなげる」ための補助的な位置づけです。
肉離れの治療では、物理療法を受けているからリハビリをしなくてよい、ということではありません。
スポーツをされている患者さんから、「酸素ボックスに入ったら早く治りますか?」と聞かれることがあります。
高気圧環境下で酸素を利用する方法については、運動後の筋損傷やリカバリーへの効果が研究されています。一方、研究結果は一貫しておらず、肉離れの治療として酸素ボックスに入れば治癒期間が短縮すると断言できるだけの十分な根拠が確立しているわけではありません。
また、医療機関で行われる高気圧酸素治療(HBOT)と、一般的な酸素ボックスは、圧力や酸素投与方法などが異なります。
一方で、
というスポーツ選手もいます。
そのような方には、通常の診療やリハビリとは別に、自費のコンディショニングの選択肢の一つとして酸素ボックスをご案内することがあります。
※酸素ボックスは肉離れ治療に必須のものではありません。ご希望や競技状況などに応じてご検討ください。
当院では、MRIも、リハビリも、物理療法も、酸素ボックスも、「やればやるほど良い」とは考えていません。
軽症であれば、診察と適切なリハビリだけで十分なこともあります。
一方で、競技レベルが高い方、大会を控えている方、再発例などでは、MRIを含めてより細かく評価した方がよいことがあります。
| 選択肢 | 位置づけ |
|---|---|
| 診察 | 基本。まず状態を評価します。 |
| MRI | 必要性を判断して行う検査。全員に必須ではありません。 |
| 運動器リハビリ | スポーツ復帰の中心。段階的に負荷を戻します。 |
| 物理療法 | 症状に応じて使用する補助的治療。 |
| 酸素ボックス | 希望に応じて追加できる自費コンディショニング。 |
スポーツ障害では、最初に整骨院や接骨院を受診される方も少なくありません。
ただし、特に成長期の学生では、肉離れだと思っていたものが骨や腱付着部の損傷である場合があります。また、重度の筋損傷や腱損傷など、画像検査を含めた評価が必要になるケースもあります。
スポーツ復帰を目指すのであれば、まず整形外科で診断を受け、そのうえで適切なリハビリを行うことをおすすめします。
まとめると、全員にMRIが必要というわけではありません。
軽症で、診察所見から大きな損傷が疑われず、競技復帰を急いでいない場合には、MRIを行わず治療することもできます。
一方で、
といった場合には、MRIを検討する価値があります。
肉離れは、多くの場合、適切に治療・リハビリを行えばスポーツ復帰を目指せるケガです。
だからこそ「痛みがなくなったから終わり」ではなく、再び全力で走る、跳ぶ、蹴る、切り返すところまで戻すことが重要です。
MRIが必要かどうかも、年齢、損傷部位、症状、競技種目、競技レベル、大会予定によって変わります。
「MRIを撮った方がいいのか分からない」
「大会までに復帰できるか相談したい」
「一度治ったと思ったのに、また同じところを痛めた」
このような場合は、まず整形外科で状態を確認しましょう。
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。実際の検査・治療の必要性は症状や診察所見によって異なります。