■ はじめに
昨年、私は45歳にして初めてフルマラソンに挑戦しました。
走ることは好きでも得意でもなく、これまでの人生で長距離走といえば中学校の持久走大会くらい。社会人になってからは、仕事の合間に軽くフットサルやジム通いを楽しむ程度で、「42.195kmを走り切る」なんて、まさか自分の人生で実現するとは思ってもいませんでした。
きっかけは、中学時代の同級生たちとの再会でした。久しぶりに集まった仲間たちとの飲み会で、ふとマラソンの話題になったのです。40代も半ばになると、健康診断や体力の衰えの話題が多くなるものですが、なぜかその日は「マラソンおじさん」の話。
「30過ぎてから走り始めたんだよ」
「いや、40過ぎてからフル走った」
おじさんが集まればよくある話。
驚いたのは8人中6人がすでにマラソン経験者だったことです。走っていない人の方が少数派でした。てっきり「すごいね」と言って終わるくらいの話題だと思っていたのですが、完全に逆。私は「走ってない組」に分類され、なぜか肩身が狭い思いをしました。
そのとき、ひとりの友人が言った一言
「とりあえずエントリーしてから考えればいいんだよ!」
というわけで、福岡マラソン募集開始が始まるとポチっとフルマラソンにエントリーしてしまいました。
■ 初めての挑戦 ― 真夏の夜ラン
とはいえ、エントリーしたものの、当選するまでは特に準備もせず。練習を始めたのは、当選が決まった7月からでした。
「さあ、これから走るぞ!」と思った矢先に待っていたのは、真夏の猛暑。日中は35℃近い気温。とても昼間には走れず、必然的に仕事を終えた後の夜に走ることになりました。
夜8時、9時になってもアスファルトは熱をため込み、蒸し暑さが体を包みます。走り出すと数分で汗が噴き出し、Tシャツはあっという間にびっしょり。最初の1kmがとにかく長く感じられ、「これは本当に完走できるのか」と不安が頭をよぎりました。
練習のテーマは「足を作ること」。最初は5kmから、少しずつ距離を伸ばしていきました。週に1回はフットサルやジムにも通っていたため、思ったよりも体は動きましたが、「黙々と走るだけ」というのは正直つらいものでした。フットサルならボールを追いかけ、仲間と声を掛け合う楽しさがあります。しかしランニングは自分との戦い。走っていると「もうやめようかな」という気持ちが何度も顔を出しました。
それでも続けていると、少しずつ変化が現れました。最初は5kmで足が重かったのですが、1か月後には10kmを走り切れるようになり、さらに15km、20kmと距離が伸びていきました。夜風を感じながら、街灯に照らされる道を走るのが日常になっていったのです。
■ 初マラソン完走の喜び
そして迎えた本番。スタート地点には、数千人のランナーが集結していました。ゼッケンをつけ、シューズの紐を締め直し、スタートを待つあの独特の雰囲気。
最初の10kmは、驚くほど順調でした。沿道からの応援に手を振り、仲間とすれ違えば笑顔で声を掛け合う。走ることがこんなに楽しいのかと思える瞬間でした。
しかし、マラソンの本当の試練は30kmを過ぎてから訪れます。いわゆる「30kmの壁」。脚は鉛のように重くなり、一歩一歩が苦痛に変わります。途中歩いたり走ったりを繰り返しながら38km地点での久光さんのエアーサロンパスが助かりました!
途中雨も降りだしなかなかハードでしたが、ゴールのゲートが見えたとき、やり切った達成感で胸が熱くなりました。5時間は越えてしまいましたが。「挑戦して良かった」――この一言に尽きます。体はボロボロでしたが、心は満たされていました。
■ そして今年 ― 新たな挑戦へ
初マラソンを終えて数か月後、私は再び走ることを考えていました。タイムは決して速くはありませんが、「完走できた」という自信が芽生え、「もっと走りたい」という気持ちが自然と湧いてきたのです。
今年は福岡マラソンにエントリーしましたが、残念ながら抽選で落選。しかし、気持ちは冷めるどころかますます高まり、1週間前に開催される下関海峡マラソンに挑戦することを決めました。
下関海峡マラソンは、関門海峡を望む絶景と、高低差のある大会のようです。昨年とは違う舞台で、成長した自分を試すことができると思うとワクワクが止まりません。
■ 走ることに慣れてきた体
2年目となる今年の練習は、明らかに昨年とは違います。
例によって7月からのトレーニング開始。初月より月間走行距離が100kmを超えました。昨年はとは違う。今では100kmを走れるようになった。体が走ることに順応し、持久力がついてきたことを実感します。
しかし、練習量が増えるにつれて、疲労も蓄積します。特に8月は猛暑の影響で体への負担が大きく、走った後に強い倦怠感を覚える日もありました。「走れば走るほど強くなる」と思っていた初心者の頃とは違い、「休養もトレーニングの一部」という考え方が身についてきました。年齢は1つ重ねたというマイナス要因はあるものの、昨年の経験はそれを打ち消すプラス要素です。
■ ランナーを悩ませる「疲労」とどう向き合うか
マラソンは「走るスポーツ」であると同時に、「回復のスポーツ」でもあります。練習で体にかかる負荷は、筋肉や関節に小さなダメージを残します。それを回復させることで、次の走りがより強くなる。いわゆる「超回復」という現象です。
しかし、疲労が抜けないまま走り続ければ、ケガや故障につながります。整形外科に来院される患者さんの中にも、「ランニング中に膝が痛い」「足の裏が痛む」と訴える方は少なくありません。特に膝の外側が痛むランナー膝、かかとや足底が痛くなる足底筋膜炎は、マラソン初心者からベテランまで多くのランナーが経験するトラブルです。
私自身も疲労を強く感じる日があり、酸素ボックスに入ってリカバリーを図っています。
これが思いのほか、効果抜群で、ぜひ日頃運動をしている方にお勧めしたいです。定期的に入ったり、トレーニング後のリカバリーとして使ったり、大切な試合前に準備に使ったりしていただければと思います。
酸素ボックスは、体内に酸素を効率的に取り込むことで疲労物質の分解を促し、睡眠の質を改善する効果も期待できます。ランナーだけでなく、日常生活で疲れを感じている方、夏バテ気味の方にも有効な手段です。
■ 走ることがもたらすもの
ランニングは、体力づくりだけでなく、心の健康にも大きな効果をもたらします。走っているとき、頭の中は不思議と整理されます。仕事の悩みや日常のストレスが薄れ、終わった後には爽快感と達成感が残ります。
また、走る習慣は生活習慣病の予防にもつながります。高血圧や糖尿病、脂質異常症の改善効果は医学的にも証明されていますし、定期的な運動は骨粗鬆症の予防にも役立ちます。年齢を重ねても動ける体を維持するために、ランニングはとても効果的な手段だと感じています。
■ これからマラソンを目指す方へ
「走ってみたいけど、自分には無理」と思っている方も多いかもしれません。私も最初はそうでした。けれど、1kmから始めれば必ず距離は伸びていきます。最初からフルマラソンを目指さなくても、まずは10分走ることから始めても良いのです。
そして、練習をする際には「休むこと」も同じくらい大切です。走ることと休むこと、そのバランスを保つことが、長く楽しむ秘訣です。
■ 次回予告
第2回では、今年のトレーニング内容や、実際に体がどう変化してきたのかについて掘り下げて書いていきます。また、ランニング中に起こりやすいケガやトラブル、その予防法についても、整形外科的な視点から解説していきます。

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院長 金沢 正幸
医学博士
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会リハビリテーション医
日本整形外科学会リウマチ医
日本整形外科学会スポーツ医
日本医師会認定スポーツ医
日本体育協会公認スポーツドクター
※婦人科は女性専門医が診察にあたります。